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第四十一話 順番を間違えない男

Author: 海野雫
last update publish date: 2026-08-11 19:07:35

 オレリアン・キャピタルからの出資を断るという仁の決断を前に、澪は焦った。

「そんなことしたら、仁の会社がっ!」

 全身から血の気が引くのがわかった。仁は大学院まで進んだのちに会社を起こし、Onlyéの名は今や国内で誰もが知るようになっていた。それをみすみす手放そうとしているのか。

「ダーマコードは、仁の子どもみたいなもんじゃない……。今まで手塩にかけて育てた会社でしょ? それを……」

 タオルを握る手に力がこもった。

 くやしい。自分のせいで仁がそのような選択をしなければならないなんて。

 顔を伏せ、自分のつま先を見つめた。目の奥がじんわりと熱くなり、涙があふれ出しそうになった。

「俺が何年かけて、ここまできたと思っているんだ?」

 仁のやわらかい声が頭上から降ってきた。澪がゆるゆると顔を上げると、仁は口の端だけを上げて、静かに言った。

「澪もよくわかっているだろ? うちの会社は、もう

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     ポストを荒らしていたのは、小柄な女性。 お腹が膨らんでいるように見えた。 管理会社の言葉が、一晩中頭の中を回っていた。 やっぱり、花音? いや、まだ確証はない。防犯カメラの映像を見せてもらったわけではないのだ。 もしかしたら、別の人物かもしれない。確かな証拠がないのに、花音を責めても仕方がない。 相変わらず、会社にも怪文書が毎日のように送られてくる。 しかし、その内容は花音しか知らないものだった。「朝倉澪は大学受験に失敗した落ちこぼれだ」「朝倉澪は男運がなく、いつも振られている」 小学生じみた内容なのだが、これは花音しか知らない。 大学受験に関しても、失敗したというより、本当に行きたかった大学に学力が及ばず、泣く泣く志望校のランクを下げたのだ。下げた先の大学には合格できたが、本来行きたかった大学ではなかった。その意味では、失敗したと言える。 それでもランクの高い大学だったので、同級生からは羨望の眼差しを向けられた。けれど花音には、本当に行きたかった大学のことも、志望を変えた理由も伝えていた。 親友だと思っていたからだ。 合格発表の日、澪は花音にだけ電話をかけた。 合格したのに澪が泣いている理由を、花音だけは笑わずに聞いてくれた。「澪はすごいよ」と言ってくれた花音の声を、今でも覚えている。 その電話の内容が、いま、コピー用紙に印刷されて会社に届いている。 それに、男運がないことについても同様だ。 今まで付き合った人からは、ことごとく別れを切り出されている。人数は少ないが、確かな事実だった。しかも、最後に付き合った直哉も、最悪の形で澪に別れを切り出したのだ。 やっぱり、花音か。 それにしても、なぜ今さらこんなことをするのかがわからない。 澪からすべてを奪ったのに、まだ足りないというのだろうか。 そういえば、花音は今、妊娠してどれくらいなのだろうか。 澪は指を折った。

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     澪の提案でOnlyé for youの成分解析を第三者機関に依頼してから一週間ほど経ったころ、仁から解析結果が届いたと連絡が入った。『ダーマコードに来てくれるか?』 仁から電話をもらってすぐに、ダーマコードへ向かった。 通された会議室にはすでにダーマコードの関係者が集まっていた。「朝倉さん。わざわざありがとうございます」「真壁さん。私ひとりで伺いましたが、よろしかったでしょうか」「朝倉さんだけで十分ですよ。ね、社長?」 なぜか真壁がニヤニヤしながら仁を見た。「そうですね……」 仁はつーんと澄ました顔をしているが、目元は真壁を睨みつけていた。 真壁は、やれやれと言わんばかりに両肩をすくめて、澪に書類を手渡した。「これが、今回出された解析結果です」 澪は書類を受け取り、素早く目を通した。 項目が並んでいる。検査した成分の一覧、検出限界値、試験方法。どの欄にも、同じ言葉が記されていた。 不検出。不検出。不検出。 アレルギーに関与する物質などは、なにも含まれていない。 それを確認すると、安堵の吐息を漏らした。「よかった……。そもそもアレルギー物質なんてあるはずないのに」「そうですよね。私たちもまったく同感です。でも、こうして解析結果が出たのですから、正々堂々と対応でき――」「それでは、この結果を公開しましょう」「え?」 真壁は口をぽかんと開けて澪を見ている。仁に顔を向けると眉根を寄せていた。「原材料にはなにが使われているのか、解析結果はどうだったのかを示すんです。もちろん、配合比率などの社外秘情報まで公開する必要はありません。ただ、『アレルギー物質は含まれていませんでした』と伝えるよりも、『原材料はこれで、解析結果はこうでした』と示したほうが、信頼性は高まります。どうでしょうか、高宮社長」 澪は仁に真剣な眼差しを向けた。

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